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感染症・重症急性呼吸器症候群(SARS)と鳥インフルエンザ
No.4 2004年 4月中国の広東省を中心に世界を震撼させた重症急性呼吸器症候群(SARS)の終息が2003年6月に宣言されました。WHO(世界保健機構)の2月データでは感染者数8098人、死者774人となっています。ウィルスの特定に手間取り、感染源と経路が特定されず、治療法の決め手が早期に確立されなかったことが感染を急激にひろげました。日本への上陸は感染していた台湾医師の関西旅行により危機一髪の状態でした。冬期に再流行が懸念されていましたが、中国広東省で12月から1月にかけて4例の感染が報告されています。さらに昨年末以来、鳥インフルエンザの脅威がアジアを襲っています。
最近の約30年のうちに多くの新しい感染症が発生しています。記憶に新しく、いまだに私達の生活を脅かしている感染症のいくつかを列挙しますと、
1969年 | ラッサ熱 | 発生源西アフリカ発生、ネズミが媒介、ヒト対ヒト感染あり |
1976年 | レジオネラ菌 | 細菌、循環ろ過型の風呂の飛まつを直接吸い込む感染肺炎 |
1976年 | エボラ出血熱 | 発生源中央アフリカの急性熱性疾患、宿主不明、ヒト対ヒト感染 |
1981年 | エイズ | 後天性免疫不全症候群、世界で150万人の患者.依然として脅威 |
1982年 | 大腸菌O157 | 157番目に見つかった腸管出血性大腸菌、感染力強い、熱に弱い |
1983年 | ピロリ菌 | 消化性潰瘍などの原因?全く発症しない人が多い |
1989年 | C型肝炎 | ウィルス本体自体は発見されていない.昆虫?血液感染 |
1997年 | インフルエンザH5N1 | ニワトリからヒトに感染、香港で食鳥140万羽を処分!! |
1998年 | 西ナイルウィルス | イエ蚊が媒介、脳炎、アフリカ、アメリカ、アジア、欧州 |
2003年 | 新型コロナウィルス? | SARS,中国広東州で発生、感染力強い |
鳥インフルエンザ | 12月韓国で185万羽処分。アジア各国で発生。(1997年香港と同じウィルス型) 2月7日報道では、ベトナムで1000万羽処分、死者18人。浅田農園では167万羽、4月6日のニュースではカナダBC州で家禽(かきん)類1900万羽を処分。 |
中国の広東省で発生した理由として、中国・広東地方の人々が好んで食べる野生動物がSARSウィルスの発生源ではないかと調査が固まりつつあります。広州の市場では家畜の肉のほか、ウサギ、ネコ、ハトさらにはハクビシンなどの野生動物が生きたまま売られています。発生源の動物を特定できればワクチンの開発に結びつくでしょう。広東省で食べられているさまざまな野生動物の血清で抗体を調べることが急務と言われています。
日本生物化学研究所理事・主任研究員、東京大学名誉教授の山内一也氏に朝日新聞がインタビューした記事(2003年4月10日)によると、新種ウィルスと言っても急に生れてきたわけではなく、昔から野生動物の体内にあったものが、人と動物との接点が増えたことによりウィルスの移動が起きるようになったとのことです。このようなことが起きなければ、ウィルスの拡散も起きなかったでしょう。動物はウィルスのキャリアとして感染しながらも発症しないで生息地内で生存しています。現代のグローバル化によりヒトや動物、物資の移動が激しく、感染の機会が格段に増えました。ヒトの移動ばかりでなく、物流の速さと量はウィルスばかりでなく害虫・害獣や細菌の急激な伝播をも意味します。飛行機に紛れ込んだ蚊がウィルスを運んだ例は多く、世界的なウィルス拡散の有力な根拠です。渡り鳥も一役買っています。
アフリカが人類誕生の地(16万年前)であるといわれていますが、何万年もかけて人類の移動と共にウィルスも世界に伝播してきました。九州に上陸してアリューシャン列島を経て中南米へ伝播していったウィルスもあります。(鹿児島大学医学部園田教授の成人T細胞白血病に関する調査)
SARSの感染から改めて学んだ身近な衛生: 日常的には手洗い、うがい、マスクなどが有効です。加湿器、空気清浄機も有効です。本来ヒトの免疫システムは感染を防ぐようにできていますが、新型ウィルスには役立ちません。それでも日常の体力保持(充分な栄養と睡眠、ストレス緩和)と衛生管理は基本的な防備として有効です。予防接種も有効です。鳥インフルエンザのワクチンはできていませんが、既存のワクチンでも多少の効果は期待できます。
海外旅行(特に開発途上国)での生水、生もの、げてもの食い、セックスは厳禁です。ある西アフリカの大使館では水道水での歯磨きも禁止して、湯冷ましを使用するように勧めていました。炭酸水やビールがやや安全ですが、オンザロックは氷が汚染されている可能性があるので危険です。外務省の渡航延期勧告にも注意してください。「厚生省検疫所 海外感染症情報」も参考にしてください。 SARS 感染に関する世界的な統計データについてはWHOをご覧下さい。
エキゾチックアニマルといわれる外来のペットも未知のウィルスのキャリアである可能性が大きいです。噛まれたり、掻かれたり、なめられないようにしましょう。可愛いからといってペットとの濃密な接触は危険です。からす、鳩、ねずみなどの都市型野性動物もウィルスのキャリアと見て良いでしょう。糞尿に気をつけてください。始末する時には手に触れないようにゴム手袋とマスクをしましょう。放置して、乾燥すると空気中に飛散するので危険です。この意味では駅舎や寺の鳩の糞も危険です。
動物内に留まっていたウィルスが感染を重ねているうちに遺伝子が変形してヒトに感染するようになる(人畜共通感染症)というパターンが一番危険です。蚊がウィルスを媒介して野生動物、家畜、そして人に感染するようになります。鳥インフルエンザはこの段階になったという懸念が現実的になりつつあります。ベトナムとタイで18人の死者が出たとの報道がありました。(2月7日)
ある病原体(物質を含めて抗原といいましょう)に対する抵抗分の強さは免疫力(抗体)といいます。その能力、反応形式は人によって個人差があります。生活環境に対する衛生管理、体力増進などの日常の注意が必要です。