内科救急指定病院 医療法人 足利中央病院 栃木県足利市

トピックス

メタボリックシンドロームと体脂肪

No.15 2007年 11月

メタボ

メタボリックシンドロームとは代謝症候群のことです。生活習慣病とよばれている主な疾患に「肥満」、「高血圧」、「糖尿病」、「高脂血症」などがありますが、これらの疾患は個別の原因で発症するというよりも、内臓に脂肪が蓄積した肥満と大きな関係があると考えられています。内臓脂肪蓄積により、さまざまな病気が引き起こされた状態です。
体内に取り込まれたエネルギー(カロリー)は細胞への栄養として供給されて、細胞分裂が進み、老廃した細胞は新しい細胞に代わります。新旧細胞の交代は身体の維持、活動と成長に貢献します。これを新陳代謝といいます。通常、代謝といえば新陳代謝のことです。英語ではメタボリズム(metabolism)といいます。

シンドローム

シンドローム(syndrome)とは、医学的にはいろいろな症状の集合として「症候群」という訳語を当てます。事故や災害により重大な傷害や精神的なショックを受けたときときにはしばしばPost Traumatic Stress SyndromeまたはDisorder( PTSSまたはPTSD)といって、あとに続く精神的な重荷を背負うことがあります。阪神淡路大震災や国鉄尼崎線脱線事故の受傷生存者が精神科の治療を必要とした事例があります。科学技術分野でも一つの事象に関係して種々の症状が起きることをシンドロームといい、たとえば原子炉心溶融事故の波及をチェルノブイリ・シンドロームと称することもありました。筆者にとっては近隣諸国の自然破壊や公害、さらには原子炉事故があれば、影響が日本にまで及ぶ「シンドローム」と呼ぶ事象がおきることが即座に想起されます。 メタボリックシンドロームは新陳代謝の効率障害からおきる「栄養取り込みと消費のアンバランス」といえるでしょう。摂取されたエネルギーはまず「糖」に変えられて保存されます。すぐに消費されない「糖」は脂肪の形で蓄えられます。余剰なカロリーが問題になっているのです。

食生活と体位

この100年、高カロリーの動物性食品を摂ることが増えたことによる栄養過多と偏りが問題になっています。ここ数十年の生活の「欧米化」により、高脂質、高蛋白食品の摂取と運動不足、さらには高ストレス社会になり、植物性食品と魚介類で何万年も育った日本人の体型まで変ってしまいました。子供の体位、男子の身長と体重を昭和33年と55年とを比較してみると、身長・体重ともすべての年齢において向上していて、特に12~14歳の中学生では身長で約9cmの伸び、体重で約7kgの増加がみられました。また一年間の発育は14-15歳がピークであったのに、12-13歳と若くなりました。(厚生白書による) しかし体は大きくなっても、幼児から成人にいたるまで運動能力の低下が見られ、持久力や敏捷性が衰えています。

脂肪蓄積と指標

一番気をつけなければならないのは過剰な脂肪蓄積です。内臓脂肪として見受けられる脂肪の蓄積は直接的には体重増加、そして内在する症候群として血管障害、ひいては糖尿病、腎臓障害、脳梗塞、心筋障害などをもたらします。 身体のどの部分に脂肪がつくかによって、肥満を2つのタイプに分けます。 ①下腹部、腰のまわり、太もも、おしりのまわりの皮下に脂肪が蓄積するタイプを「皮下脂肪型肥満」、②内臓のまわりに脂肪が蓄積するタイプを「内臓脂肪型肥満」とよびます。体形から①「洋ナシ型肥満」②「リンゴ型肥満」ともいいます。二つのタイプのうち、「皮下脂肪型肥満」は外見から明らかにわかりやすく、典型的には相撲力士に多く見受けられます。「内臓脂肪型肥満」は外見ではわかりにくいので、まずはウエスト径(へそまわり径;腹囲)が男性では85cm以上、女性では90cm以上であれば内臓脂肪型肥満が疑われることになります。ところで相撲力士の場合外部から見ても洋ナシ型肥満が顕著ですが、日頃の運動量が多いため、体脂肪率は20%台であり、内臓脂肪ではなく、皮下脂肪が多いそうです。(お相撲さんと糖尿病
内臓脂肪は貯まりやすく、燃焼しやすいので、運動とダイエットの成果が出やすく、生活改善の効果が現れやすいという特徴があります。 体脂肪計が精密体重計とともに家庭に普及していて、一喜一憂するケースがみうけられますが、これは測定の変動が大きいので、健康管理の補助的指標として観測するとよいでしょう。自宅で毎日測れるというのは便利です。毎回同じ条件で測定するように努めてください。(起床時、入浴後など)

体脂肪計

体脂肪計は体内の脂肪の電気伝導を指標とするので、皮下脂肪と内臓脂肪の区別はできません。皮下脂肪や内臓脂肪以外に、血液の中に含まれる脂肪分や、細胞膜を構成する脂質すべてが含まれます。これら体脂肪の体重に対する比率を計測するのが体脂肪計です。目安として男性で25%、女性で30%を肥満の境界値と考えてよいでしょう。長期間測定して、年々増加している場合には肥満傾向にあるということで内臓脂肪をチェックすることを勧めます。詳しくは体脂肪測定器のメーカーの提供する数値を参照してください。

BMI

別の肥満判定指数として、ボディ・マス・インデックス(BMI)という、体重(kg)を身長(メートル)の2乗で割った数値があり、18.5-24.9の範囲が望ましいとされています。

(例:身長1.65m、体重68kgのひとのBMIは
68÷1.65÷1.65=24.97
正常の上限といえます。

BMIの標準を22と考え、
標準体重(kg)=22x身長(m)x身長(m)
を目標として設定できます。

身長1.65mのひとの標準体重は
22x1.65x1.65=59.9kg です。

まずは、自分のおおよその標準値を知ってください。ウエスト径にしても、BMI(身長が一定とすると、自分の体重)にしても1cmや500gを気にして一喜一憂するのではなく、長期的な指数変化の傾向を知って日常の生活と食餌の改善を計ることです。

体重・身長とBMLの相関

一番勧められるのは、健康診断の一環としてCTスキャンなどにより内臓脂肪率を測定し、生活習慣の改善にとりかかることです。足利中央病院ではCTスキャンによる検査で内臓脂肪量を測定して、これを基に生活、運動、嗜好の三面から指導を行います。嗜好とは喫煙と飲酒ですが、禁煙についてはこのホームページのトピックスNo.13(2006年10月)で説明しました。 結論的にはダイエットと適度な運動です。一言で言えば摂取カロリーと消費カロリーの適切なバランスです。前回のトピックスの「耐糖能機能異常」で述べたとおり、常識的な健康生活は必要な管理事項を全て含んでいます。

  1. 食事
    • 規則的な食事時刻とゆったり時間をかけた楽しい食事
    • カロリー計算に基づく食物の種類(蛋白、脂質、繊維質)の適正バランスと量の管理
    • 間食をやめて、禁煙・節酒
  2. 運動
    • 有酸素運動の継続20分以上:もっとも容易で身近なのが一日一万歩です。激しい運動ではなく、やや汗ばむ程度で十分です。
    • 筋肉、関節への適度な刺激 (老化防止・転倒防止)
      これはエスカレーターやエレベーターの使用をできるだけ控えることで達成できます。スポーツジムに通って汗をかくのもいいですが、毎日の生活の中に適正運動の機会はころがっています。

担当医が定期健診の結果を目安に適切なアドバイスをいたします。

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