内科救急指定病院 医療法人 足利中央病院 栃木県足利市

トピックス

国際モダンホスピタルショー

No.18 2009年 1月

東京ビッグサイトで国際モダンホスピタルショウ2008と介護フェアが開催されましたので報告します。メインテーマは「健康増進で築く豊かな医療と福祉─新しい地域ケアの姿をめざして」でした。2009年7月には「いのちの輝きを!明日に架ける健康・医療・福祉」というテーマで開催されます。

このホスピタルショーでは、医療機器と環境設備、経営サポート、ヘルスケア、検診・予防、看護、医療情報システム、および介護に関する展示と講演がありました。訪問者の大部分は病院関係者、医療従事者のようでした。参加者のアンケート分析は掲記ホームページで紹介されています。

企画展示は「ユビキタス医療IT-人と地域をつなぐ」という現在のICT(情報通信技術)の流れに沿ったもので、医療分野における安全管理や情報共有、業務の効率化などが医療と社会全体にあまねく応用されることを目指しています。これは筆者が取り組む医療とITCのコラボによる地域差の解消と「住民-かかりつけ医-地域中核病院-広域総合病院・大学病院の連携」への流れを目指す内容でした。

展示では高度・高額設備の適正場所への設置・運営と医院・病院間の一体となった住民サービスを目指していることが分かりました。中核展示としてはITCの利用による医療業務(医師、医療スタッフ、患者さん、行政を包括して)の効率化が実現されることを目指して展示構成されています。医療関係者も患者さんも2009年の催しに参加・見学なさることを勧めます。

医療とITC

デジタル・デバイドというパソコンやインターネットを使いこなせない人々にも普遍的に医療サービス情報とその実践が行きわたるようにすることが必要です。まずは、病院運営において医療スタッフがツールとしてITCに習熟することから始まります。 相応して患者さんご自身やご家族がITCに習熟して適切な医療情報を取得して実生活に活用することが日常的になりつつあります。時には生死を決するようなことになるかもしれないことを自覚するべきです。

人工透析を必要とする方が通勤に便利な医院を見つける、観光旅行や出張先で透析ができる病院をさがすことは日常的になりました。近くの医院や病院の選択、病状の把握、薬の知識、インフォームド・コンセントの実践、同様の病気で悩む患者さんや家族のネットワークなど、インターネットで得られる情報は、使い方次第では宝の山です。

ITC関係の一般機器でも、携帯では「らくらくホン」そしてパソコンでは「らくらくパソコン」が売り出されてシニア層のユーザーのITC参加を促しています。 電子カルテはすでに医療ICTの俎上に載って実用化の途上ですが、筆者自身の経験では1990年代半ばに、米国から日本への転院に際して、カルテは電子複写してレントゲン写真とともに携行して帰国できました。カルテの書式そのものは日本のそれとマッチしませんでしたが、英語で記述されたデータは十分に実用になりました。ワンクリックでインターネット経由カルテが伝送できるということは、制度問題はありますが、すぐそこにあります。

筆者は患者さんの立場からも取材しました。

医療の設備としては、展示の中でも一番分かりやすい、入院患者さんの快適性に関する機材が数多く展示されていました。

ベッドサイドマルチメディア

ベッド一つを見ても百万円近くもする、すべて電動で、寝たままの色々な姿勢にあわせたテレビスクリーンの向きの調整や、室内の明るさにあわせて輝度自動調整など、夜間に視聴しても隣りの患者さんに迷惑にならないようにすることができるものがありました。 液晶テレビを横向きにして,横を向いて寝ていても見られるというのは疲れにくいです。真上を向いて寝ていても最適な角度で見ることができます。心地よい部分照明、病院スタッフとのやさしいコミュニケーションなど、あったらいいなあと思われるものが沢山ありました。筆者自身の入院でも差額ベッドで経験しました。 液晶テレビは医療情報システムと組み合わせることにより、医療スタッフはベッドサイドで、患者さんの本人確認と個人情報表示、進行中の医療情報、薬と服用時間の確認など安全性に直結した便宜がもたらされます。患者さんにとっては、医療情報の共有、点滴や服用する薬の情報など目視確認ができます。

いままでは患者さんのIDはバーコードの腕輪が多かったのですが、ICチップを埋め込んだRFタグ(ICタグともいいます)をつけた腕輪の使用により、多くの情報をやり取りすることができるようになりました。

これから回診が始まりますよ、という通知をテレビ画面から受けたり、食事のメニューの選択や確認なども表示できます。これらはベッドサイド・マルチメディア・システムとして普及していくでしょう。これを利用してインターネットの世界を散策したり、ニュースや娯楽ということも可能ですが、限りない安全性の問題(電子ウィルス攻撃やシステムへの不法侵入)から当分は、院内システムとインターネットは隔離して使うことになるでしょう。

ベッドから自宅や友人と話ができる電話システム(非常に微弱な電波で、携帯電話と同じように通話やメールができる)の可能性は展示されていませんでした。現在、大部分の病院で禁止している病室での携帯電話あるいは同等機能の電話機の使用が可能になるに違いありません。医療機器との電波干渉の心配よりは、マナーの問題の方が電話機の使用を妨げる要素になるでしょう。

医師やスタッフが使用している微弱電話の携帯可能な電話機のレンタルが考えられます。現在は公衆電話まで行かねばならないという状況は解決していません。家族からの通話は困難です。いくつかの医療施設では「携帯電話利用区域」を設定して院内でも携帯電話の使用を許可する動きが見えますが、さらに院内広域で使えるようになるでしょう。

高度医療機器の地域共用

医療機器や医療情報システムの応用・利用など限りなく発展中であり、設備投資は莫大になります。大都市の基幹病院でさえも閉鎖するような(医師不足が主因)病院運営の難しさもあり、どの病院でも最新の設備を備えることができませんが、病気の種類や症状によっては病院間連携が必要でしょうし、できるようにしなければなりません。

たとえば炭素重粒子照射治療システムは世界に三台、日本では千葉県稲毛市の放射線医学総合研究所と兵庫県立粒子線治療センターにしかありませんが、2009年内には群馬大学医学部で運用が始まります。(トピックスNo.12参照) これは数百億円の高額設備の極端な例ですが、簡便なレントゲン撮影装置にいたるまで、さまざまな診断.治療設備をどこまで個々の病院に備えられるかというのは常に立ちはだかる課題です。

医療情報ネットワークの拡充によって近隣病院の得意な診断・治療領域の適正分担や設備の共用は、解決を目指している課題です。近い将来に可能になるでしょう。

救急患者の最適搬送(距離、時間、担当医師、入院受け入れ)管理はITCの一番得意とするところですが、システムの完成度が進んでいる割には、医師不足や施設の収容容量の制約から、目指す実用度が達成できない状態です。ユビキタス医療ITは最適な展示テーマでしたが、最も基本的なニーズである救急システムや科目による医師の偏在など、このホスピタルショウでは解へのアプローチが見つかりませんでした。

注:ITはInformation Technologyの略ですが、国際的にはITC、Information and Communication Technologyが使われています。

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