内科救急指定病院 医療法人 足利中央病院 栃木県足利市

トピックス

切らずに治す

No.22 2010年 7月

トピックスNo.12 2006年 5月に「切らずに身体の中を診る」と題して画像診断について説明しました。千葉市稲毛区にある放射線医学総合研究所の重粒子医科学センターと重粒子線治療について、およびCT、MRI、陽電子断層画像(PET)などに触れました。その中で日本では3台目の重粒子線照射施設が群馬県に設置予定と記しました。およそ4年の歳月をかけて20010年3月から群馬大学重粒子線医学研究センターにて試験治療開始の運びになりました。6月から本格的に運用開始との報道が5月末日にありました。群馬大学医学部付属病院の発表によると6月1日から頭頚部腫瘍、6月9日から肺がんと肝細胞がん治療の受付を始めたそうです。

放射線医学総合研究所の情報によれば重粒子医療を実用化しているのはドイツ、スイス、日本など非常に限られています。陽子線照射治療は日本でも9施設、重粒子線治療設備は日本では兵庫県、千葉県、および群馬県の三箇所、世界各国で計画中を含めてもそれほど多くありません。だれもが重粒子線による治療を受けられるようになりつつありますが、高度先進医療のため、健康保険が使えず、治療費の負担が大きいのが現状です。恵まれた日本国内でも治療をうけるには遠隔地への入院・通院ということになりそうです。

画像診断から一歩進んで、「切らずに治す」という可能性が広がったのは喜ばしいことです。群馬大学の資料によれば三つの大きな特長として、

  • がん病巣だけに照射するので周囲の正常な臓器へのダメージが少ない
  • 一般の放射線が効かないがんにも効く【効果が期待されるがんとして、脳腫瘍、頭蓋底腫瘍、眼腫瘍、頭頚部がん、肺がん、肝臓がん、すい臓がん、前立腺がん、子宮がん、直腸がん(術後再発)、骨腫瘍を挙げています】
  • 少ない照射回数で治療ができるので、早期社会復帰が可能になります。照射準備が整えば、その後の照射は日帰りで可能です。

放射線は空間(空気中でも真空中でも)光と同様に「波」や「粒子」のかたちで伝わり、衝突した物体にエネルギーを与えます。力学の「衝突」に例えられるでしょう。放射線の中で、光の延長としてのX線やガンマ線にくらべて電子のほうが重く、さらに陽子や中性子のほうが重く、衝突時のエネルギー転換は大きくなります。さらにヘリウム、炭素、ネオンの順に重くなります。軟式テニスのボールよりも硬式野球のボールをぶつけた方が衝撃が大きいことは容易に想像できます。重粒子線治療では炭素イオン線が用いられますが、その最大の特徴は体内への照射ビームの太さと到達深度を正確に制御できることです。しかも身体の奥の患部の位置で陽子線よりも大きなエネルギー放出します。がん細胞へ与えるダメージが大きいのです。目標のがんの形状にあわせて照射できます。照射自体は一回で済むこともあり、日帰りもできますが、ポーラスという照射の深さを調節するカバー(照射を受ける人の患部の形状に合わせてつくる)の制作のために入院したり、複数回通院したり準備に時間を必要とすることがあります。照射時の痛みは全く無く、外科療法や化学療法に比べて身体への負担が少ない(侵襲が少ない)という特徴があります。

がん治療の方法は日進月歩ですが、あくまで私たちが心がけなければならないのはがんの早期発見です。早期に治療を始めることができれば、転移の可能性が少なく、治療に要する費用も時間も少なくて済みます。そのためにこのトピックス・コラムNo.12で述べた画像診断が威力を発揮します。足利中央病院にある高速マルチヘリカルCTの写真と画像例を添付しました。導入後一年以上経過して十分に役立てています。CT、MRI、PETなどそれぞれ画像診断の特徴があるので、検査の目的によって医師が選びます。全ての装置を備えることは病院にとって負担が大きいので、必要に応じて連携病院に撮影を依頼します。 重粒子線装置は診断装置ではなく、治療装置ですが、広大な敷地と建設に要する費用が極めて大きいことから限られた国にしかありません。群馬大学に設置されたことは地域の人々にとってはありがたいことで、千葉市稲毛区の放射線医学総合研究所の施設の負荷もいくらか緩和されるでしょう。群馬大学の専門家と放射線医学総合研究所の医師との交流は計画当初から実行されてきていますので、すぐに実力発揮できるでしょう。

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