内科救急指定病院 医療法人 足利中央病院 栃木県足利市

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ICT総合戦略に見る医療 その1

No.25 2011年 11月

10月4日~8日幕張で開催された情報通信技術(ICT)の世界的レベルの展示講演会CEATECでは家電や産業の情報通信および医療に関する展開が見られました。4日間にわたって開催されたので、日本全国はもとより世界から多数の参加者がありました。

もっとも盛況だったのは、情報端末関係の展示でした。今まで使っていた携帯電話はすっかり様相が変化して、表示面が大きくなり、WEB閲覧やテレビの視聴が便利になりましたが、機能がさらに高度化された「スマートフォン」が隆盛になりました。さらに進歩する端末の多様性として、表示画面が、はがき大からB5のフルページ近くまで大きくなったタブレット型端末が発売されました。これには携帯電話とテレビ、パソコン機能が統合されて、それぞれの機能の境界がなくなってきました。

テレビには情報端末としてパソコンや通信ネットワークの機能が取り入れられてきました。録画機能の内臓を初めとして、同時4番組の録画、録画媒体にブルーレイ・ディスクや外付けハードディスクを使う、立体画面などが採用されました。テレビに、パソコンと同じように家庭内情報通信ネットワークをつなぎ込むLANの接続が普及しました。省エネや起動即応性も進歩しました。

「いつでも、どこでも」というユビキタス性は社会の中から、家庭の中にも入ってきました。企業や病院内でのネットワーク構築はもとより、小規模ながら家庭内でもネットワークが普及してきました。無線の利用により配線の難しさから解放されました。居間と書斎、寝室、子供部屋、ときには浴室までどこでも同じレベルの情報(テレビや音楽、インターネットとへの接続)が可能になりました。

これらの情報端末は家庭では娯楽の要素が多いのですが、社会的には業務用の情報端末としてビジネスマンはもとより、医師や看護師も多用するように進化しつつあります。教育の面でも、先生の教え方に変化が生じ、豊富な教材をわかりやすく見せることがでるようになりました。学生もタブレットを机の上に置いて、恥ずかしがることなく、分からない、質問あり、などと先生と通信できます。筆者は大学の教壇に立ちますが、口頭の質問に対して挙手しない、分かっているのかどうか表明しないなどの消極性を感じていますので、教室環境の改革に期待しています。

総務省高官の講演によると、2012年度の一般会計予算概算要求額は98兆円ですが、(平成23年10月5日政府発表)医療に関する情報通信(ICT)活用戦略として550億円が医療情報連携基盤(医療、介護、薬局)の構築推進関連に要求されました。政府の方針は予算の数値から読み取ることが可能で、各省の予算項目と要求額を知ることができます。東日本大震災によるインフラ、特に土木構築物の損壊を見れば、国土交通省が2兆円弱の要求を出したのもうなずけます。医療関係は総務省と厚生労働省に分散しています。

医療関係予算は国の仕組みづくりに投入されますが、現場にはレセプト、電子カルテ、医療連携、介護連携として「情報通信」の利活用が見えるようになります。産業界ではネットワーク・システム機器、情報端末の多様性、安全性、便宜性(使いやすさ)が進みます。懸念するべき点としては医師、医療・介護スタッフ、そして主役である国民ひとりひとりのデジタルデバイドが顕在化して普及を遅らせることがあります。専門化されていく情報端末は使用法の習熟が必要で、患者さんや被介護者が利用できるように単純明快な、簡単操作の端末を提供しなければなりません。この点は頭では理解されていますが、実用面ではプライバシーと微妙な関係があり、便宜提供者と一般利用者の間のきめ細かい詰めが必要です。見守りや介護にはセンサー(人の動き、さらにはバイタル情報など)が不可欠なのですが、居室、寝室、浴室、トイレなど次第に個人の生活に深入りしていくようになり、情報の粗さと精度の釣り合いの難しさに直面しています。

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