内科救急指定病院 医療法人 足利中央病院 栃木県足利市

トピックス

地域医療

No.33 2014年 12月

まえがき

トピックスNo.32(2013年6月)番号制度(マイナンバー)の状況を説明しました。そのなかで地域医療について触れました。医療と情報通信技術(ICT)はこの30年の間に論じられてきて、1980年代は医事会計の効率化、19990年代は院内業務の効率化を図るため、オーダーリングシステムが充実しました。2000年代初期は電子カルテシステム、これからは地域医療が推進されます。

筆者は米国の情報ハイウェイ構想(クリントン大統領とゴア副大統領)に関与して、日米間の遠隔医療推進の一端を担いました。医療と情報通信技術の関係はますます発展しなければならないのですが、その一面は医療と行政の効率的な運用、他面は医療研究の国際的交流の一助となることです。技術的には十分にICTは役立っていて、ゲノムの解析に見られるように膨大な情報を整理して情報間の相関性を見つけることおよびデータを統計的に整理するなどの情報処理技術利用に役立っています。

膨大なデータを処理して活用することはビッグデータの活用として、後日の話題にする予定です。

地域医療構想

医療にかかわる情報のやり取りは下図の厚生労働省資料に示すように、多岐にわたっており、高度なICT技術、とくに個人情報保護と医療機関・行政の共通プラットフォームを構築しなければなりません。厚生労働省の第3回社会保障分野サブワーキンググループ及び医療機関等における個人情報保護のあり方関する検討会の合同開催 議事次第及び資料(全55ページ)からの図を引用します。

上図の中央上の医療保険の部分は完成していて、医療機関からの健康保険組合への医療費の請求(レセプト)7億件の電子化は90%とほぼ完全に普及しています。電子カルテシステム(2011年11月 No.26 参照)は大病院(400床以上)では約60%、中小病院では下)では約30%の導入率です(2013年4月時点、IBM「電子カルテ最前線」による)。電子化が進むと従来からの構想である診療データの共有を進めることが推進されます。電子化情報の流通が盛んになるにつれて個人情報保護の重要性が増します。末端の保健行政は県単位でなされていますので、まずは県域でのデータ共有です。近いうちに医療業界全体がそれぞれにネットワークの一拠点となり、機能分担していくようになるでしょう。

行政の目標としては、トータルの医療費を減らすことを第一としています。そのために、軽度の病気は家庭医(最寄りの開業医、クリニック;往診してくれるような身近な医師)で対応してもらい、地域総合病院、そしてトップレベルの中核病院への段階的な階層を経て高度の医療がなされることを目指しています。健康保険財政は公的保険も組合保険も苦しいのが実情です。

実施例

医療費の削減

国民医療費(一人当たりの医療費)は長野県が全国平均よりも20%低く、同県佐久市は市民の健康意識の啓発に努め、日本一長寿の町として知られています。ここでは行政が、市民の健康推進を意識して、健康診断、運動・食事を中心とした生活指導をしています。ICTを利用した遠隔医療(在宅介護も含む)を実施して入院日数の減少と医療機関での受診の減少を実現し、老人医療費の削減を実現しています。必ずしも高度のICTや番号制を必要とするシステムを作ったわけではありません。平成26年5月の福岡県医師会の講演では高齢の希望者に医療データ(既往症、通院医院名、服用中の薬ほか基本データ)を登録してもらい、いつでもどこでも救急医療を受けられるような取り組みをしているという紹介がありました。電子カルテとの連携の構築も進んでいます。しかしながら、このような取り組みは自治体ごとにばらばらで、全国で統一的なシステムが運営されているとは言えません。国と自治体がしっかりした串刺しシステムを構築し、ばらばらの個別の投資を避けるべきです。

究極的には資格のある医療スタッフがいつでも、どこでも共有医療データにアクセスするということですが、現在は、必要に応じて医療機関の間の、転院や患者紹介に関係するカルテの「一部分」のやり取りにとどまっています。処方の記録は不可欠です。個人の医療データを全部送受することは量が多すぎて、必要十分な情報を超えてしまうでしょう。医療機関相互の合意に基づいて情報の深さや時間基準を定めます。在宅医療はケアシステム要員がアクセスできる個人健康情報には制限があります。ドナーカードに個人の基本医療情報を掲載して、緊急時に役立てることはすぐにでも実施できそうです。

医療と番号制度(マイナンバー)

現在では番号制(トピックスNo.27No.32を参照)が実現していませんので、電子カルテ上の個人情報は健康保険番号経由のみ特定可能です。これが番号制で管理されると、地域医療に反映されて医療施設の間の連携に役立ち、個人の医療情報の伝達、処方薬の情報共有、重複検査を避けるなどの節約などに役立ちます。しかし今までの限られた分野での情報利用が国家管理の傘の下にはいると、個人が望まない情報が国家に集約され、望まない利用がなされるかもしれません。特に懸念されているのが、商業ベースでの個人情報へのアクセスです。とくに医療情報へのアクセスは民間に開放するべきではありません。

個人情報を手に入れようと、あらゆる手段がサイバー犯罪者により試みられています。

期待と見通し

  1. 番号制度の第一層は、4つの基本情報(氏名、生年月日、性別、住所)に限られるべきでしょう。これらで本人性の確認は十分です。
  2. セキュリティ:トピックスNo.27「番号制度の仕組み」の第2項で説明しましたが、基本情報から出発して「社会保障・医療」、「課税」、「地方自治・災害」の三本の紐を手繰ってより深い個人情報を引き出して「官」が使います。病気に関する個人情報は紐の先の、深い、安全な場所に格納するべきです。「官」がより深い層の個人情報を利用するには仕組みの項の第4項に示したように、国が定めた特定の事務にしか使えないものとします。個人情報にアクセスする係員、吏員は本人の素性と適正業務目的での使用であることの証明、および使用日時と使用目的を「履歴」として指紋、足跡を残しておかなくてはなりません。時間外使用と登録していない端末からの利用は禁止するべきです。複写は禁止です。
  3. 私企業の使用は第一層の基本情報に限られるべきです。すなわちあなたの本人性を確認するだけです。利用可能な便宜と犯罪は常に表裏の関係にあります。提供された便宜を正当に使うのは当然ですが、「想定外」の不都合が起き得ます。番号制度の実施の進捗を注意深く見ていきましょう。
  4. 国民一人ひとりが個人情報に対する自覚を持たなくてはなりません。自分の情報がどこまで登録されているのか、誰に、どのレベルまで利用されているのか知る努力をしてください。

結び

現在でも医療を受ければ、病院にとっては、国民健康保険加入者については国保へ医療報酬の請求およびその他の保険加入者については健康保険組合に医療費の請求がなされます。電子カルテには実施した検査と治療および処方した薬剤の記録が電子的に記録されます。きわめて個人的な情報ですが、すでに電子記録は実施中で、まだ番号制にリンクしていないだけです。

これが番号制で管理されると、地域医療に反映されて医療施設の間の連携に役立ち、個人の医療情報の伝達、処方薬の情報共有、重複検査を避けるなどの節約などに役立ちます。しかし今までの限られた分野での情報利用があまねく国家管理の傘の下にはいると、その安全性について究極の管理がなされなくてはなりません。


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