内科救急指定病院 医療法人 足利中央病院 栃木県足利市

トピックス

緊急警戒・新型インフルエンザ

No.11 2005年 11月

鳥インフルエンザが突然変異した新型インフルエンザが人間社会で大流行する危機が迫っています。鳥からヒトへの感染は拡大中です。これがヒトからヒトへの感染モードになると急速に流行する可能性が極めて大きくなります。人々に免疫力が備わっていない新型のインフルエンザが流行すると多くの死亡者がでる可能性があります。過去にはスペインかぜ(1918年)、アジアかぜ(1957年)および香港かぜ(1968年)などがあります。スペインかぜでは世界で推計6億人が感染し、3千万人が死亡しました。既知のインフルエンザといえども流行から4-5年経過すると人々の免疫が弱まって再度流行することがあります。

2005年1月にこのトピックスNo.8でインフルエンザ流行の兆しについて述べました。幸いに、大流行にならずに済みましたが、流行予想のインフルエンザのタイプについて予想通りA香港型とB型であったことでワクチンの準備ができていたこと、および私たちの予防接種の意識も強くなっていたためでしょう。このトピックスで、鳥インフルエンザが変異してヒトに感染するタイプになる懸念を述べました。

2005年11月9日時点までに、世界保健機関(WHO)に報告された、インドネシア、ベトナム、タイ、カンボジアでの高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型のA型)のヒトへの感染確定症例数は125、死亡例数は64にのぼっているとの外務省報告があります。この数は日々増加しつつあります。

2005年6月、茨城県で鳥インフルエンザが発症しました。鳥がばたばたと死ぬというような現象がみえない、弱毒性のH5N2型であったため発見が遅れました。これが強毒型に変異する可能性があります。茨城県は10月までにニワトリ148万羽を処分しました。
トピックスNo.4で、SARSと鳥インフルエンザについて述べました。再度の警告になりますが、世界的な交通・交易の進歩は人々の国際交流と物流を日常的にしました。米国で流行していた西ナイルウィルス(蚊の媒介)に感染した日本人旅行者が帰国して発病しました(2004年7月)。安易な海外旅行、強行軍による過労、睡眠不足、初めての食品(特に生もの)、開発途上国の非衛生な環境に注意しましょう。英米独仏などの先進国といえども食品も汚染されている可能性があるという事実を踏まえてください。いわゆる「ゲテモノ食い」は厳に慎むべきです。筆者はアフリカ奥地の電気の無いところで生活したことがありますが、食品と水の加熱および防虫に最大限の努力をしました。しかし、都市部のその国の最高レベルのホテルでの食事で体調を崩した経験があります。
都市の巨大化・人口集中、国民の高齢化はインフルエンザの短期間に爆発的な流行になる可能性を持っています。

合法的に輸入されたペットはウィルスのキャリアの可能性は少ないですが、ちまたには密輸入の爬虫類や鳥類、虫が一部の好事家によって飼われています。これらが未知のウィルスのキャリアであることは十分に考えられます。ペットとの過密な接触や放置は個人の趣味が本人だけでなく、公衆の危機になり得ます。

世界的な対策

  1. 抗ウィルス剤タミフルの備蓄:米国を初め、各国でウィルスの増殖を抑えるタミフルを備蓄しようと努めています。米国では今年中に8000万人分の備蓄を、日本では2500万人分と言われています。副作用について議論がありますが、皆無とは言えないので医師の指導を受けてください。この薬はスイスのロシュ社が特許に守られて独占製造しており、緊急需要には生産が間に合わず世界的な争奪戦になる懸念があります。一部の国々では調達できないという国力の差が出つつあります。エイズ治療薬も同じ傾向です。コマーシャリズムと人類緊急事態が衝突しています。WHOと各国政府の動向を見守りましょう。
  2. ワクチンの製造:日本では国立感染病研究所が動物実験を終えて来年初めの臨床試験開始を目指してワクチンメーカー4社と計画を進めているそうです。WHOが提供するベトナムのウィルスを基にしています。ウィルス変異が異なるとワクチンの効果が減少する懸念もあります。
    米国では国家予算71億円(約8300億円)を投じて新型インフルエンザの流行に備えるという大統領発表が11月1日にありました。皮肉なことにワクチン製造には特別に衛生管理をした「鶏卵」が必要で、この確保が難しいという問題を各国とも抱えています。

日常のインフルエンザ予防と対策

  1. 手洗いとうがい:外出から帰ってきたときはもちろん、在宅、在室(事務所)のときも手洗いとうがいをしましょう。これは平成17年度厚生労働省「今冬のインフルエンザ総合対策について」のトップテーマです。
  2. ワクチン接種をうけましょう。既知のインフルエンザには有効です。鳥由来のインフルエンザのワクチンはまだ接種を受けることができません。現行のワクチンは既知のウィルスによるインフルエンザに有効です。大流行の可能性は鳥インフルエンザとは限りませんので、接種をお勧めします。
  3. 人混みにでかけるのはできるだけ避けましょう。マスクをしましょう。
  4. 空気清浄機、加湿器などをつかって室内の環境を整えましょう。乾燥は禁物です。
  5. 風邪の症状が出たら、直ぐに受診しましょう。
  6. インフルエンザウィルスを殺す薬はありません。タミフルはウィルス増殖を抑える薬です。病院で処方する薬は熱、咳、痛みなどの対症療法です。身体の保温、休養、栄養摂取に努めて体力(免疫力)を維持しましょう。
  7. 風邪の症状を持ちながら外出、出勤・登校するのは厳禁です。自分自身のためにならないばかりか、ウィルスをまき散らし社会に迷惑をかけることになります。

WHOを中心に世界的な警戒状況にあります。実際に新型インフルエンザが発生したときには海外旅行を自粛し、患者が発生した学校や通所施設は休業し、罹患した従業員の出勤停止をするなどの措置が必要とされています。

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